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訪問看護師は死体の撮影係ではありません

ICTを利用した死亡診断に関するガイドライン策定に向けた研究の報告書が公開されました。450万円という予算の割に薄い報告書ですので、すぐに読むことができます。

先日の朝日新聞の報道読売新聞の報道では、研修を受けた看護師が看護師(おそらくは訪問看護師が行うことになると思います)が、遺体の写真を撮ったり、心電図を付けてそのデータを送るといった行為をICTを用いて行うことで医師に情報を伝え、看護師が死亡診断書を代筆するという仕組みとして紹介されています。

  看護師が訪問し、心停止や呼吸の停止、瞳孔の開きを間隔をおいて2回確認。外傷の有無なども観察し、スマートフォンやタブレット端末で遺体の写真などとともに医師に送る。医師は「死亡」と確認すれば、看護師に死亡診断書の代筆を指示し、医師はテレビ電話などを通じて遺族に口頭で説明する。 – 医師の死亡診断、遠隔で可能に スマホで看護師から報告、朝日新聞

補助する看護師は、離れた場所にいる医師の指示を受けながら、亡くなった患者に聴診などを行い、スマートフォンやタブレット端末などで状態を医師に伝える。必要な写真や心電図のデータも送る。これらのデータを基に医師が死亡診断を行い、看護師が死亡診断書を代筆する。 -看護師、スマホで医師にデータ送信…遠隔での死亡診断が可能に〔読売新聞〕

これは報告書の内容とは必ずしも一緒とも言えないように感じましたが、懸念すべき点が2点あります。

1点目は、死者の尊厳を損なったり、過剰に「死」の医療化を強調するような方法ではないかという点。看護師が死体を撮影する行為や、通常使用しない心電計を装着する行為は人の死のあり方として適切でしょうか。

2点目は、本当にICTが必要であるのかという点。分担報告にあるイギリスの例でも、心電図などは必要としていないのにかかわらず、なぜそれを適当と評価しているのかがよくわかりません。

 心電図により心停止の確認を行う必要はないのかとの問いには、触診と聴診が中心だが、5 分以上の時間をかけて診断しており、死亡確認の手順に疑念をいだいたことはないとの返答であった。 –分担報告書、P9

法医学者には、看護師が心臓が動いているか止まっているのかがわからない存在とみなされているということです。

そもそも今回のテーマであれば、医師と研修を受けた看護師ではどの程度の判断の誤りに違いがあり、心電図をつけることで、どの程度、看護師による報告の信頼性が向上するのかを評価するものだと思いますので、大変に不十分な検証であると思われます。(邪推すれば、結果ありきの研究であったようにも考えられます。)

ICTが必要だとすれば、医師が看護師の報告を速やかに受けられる仕組みぐらいではないかと思います。

これからの多死の時代に向けて大事な制度だと思っていますが、絵に描いた餅、特定行為研修制度の二の舞にならないかと、たいへんに危惧しています。西田先生にも話を聞くなどして、在宅看護学会の理事会にも意見を求めたいと思います。

*一部引用を追加しました。

手術しちゃいました(嘘)

エイプリルフールを先取りして、ふざけたタイトルをつけてしまいました。年度末でわさわさ仕事をしているのに飽き、忘れていたことをすることにしました。昨年の5月に皮下埋込み式ポートのシミュレーターの質が低下して困っているという投稿を書きました。

今年の演習で、やはり支障が生じたので、私が手術をして治してあげることにしました。(もちろん相手は人ではなく、シミュレーターです。)

同じことを考える人もいるかもしれないので手術の経過記録を以下に示します。

まず、患者さんの全体像です。よく見るとポートのところに針を刺すには随分大きな穴が開いています。

そこで、BARD MRIポート 8.0Frを購入しました。(一般の方は購入できないと思いますが、患者さんにも使えるものですので、4万円ぐらいすると思います。)

真ん中あたりのケースの下にある丸い物が取り替えるポートになります。最初に検討ポイントは、この針を刺して、点滴液が外に流れていく経路のチューブをどうするのかという点です。製品のチューブのサイズが合わなければ交換しなければ行けませんし、合うとしてもポートの付属品であるカテーテル(写真の青いチューブ)とどちらが良いかを考える必要があります。

ガイドワイヤーもついているので、カテーテルを入れ替えることもできそうでしたが、既存のものの方が内径が太くつまりづらい用に思われましたので、そちらを採用することにしました。

まずは接続部をカットして、

ぴったりハマりました。  

漏れがないかを確認   

大丈夫そうなので、元のポートを剥がす作業に入ります。

意外と簡単にペリッと剥がれました。ここで二つ目の問題です。このポートは人体に挿入することを考えて、シリコンでカバーしてあります。人間の体であれば、縫合すれば良いわけですが、相手はプラスチックの類ですので針は刺さりません。そこでボンドで接着を考えますが、シリコンは素材の特性上、ボンドとは相性が悪いです。そこで…

そうです。シリコンコーティングを切り離し、ポリアセタール製のポートをむき出しにした上で、ボンドを双方につけて10分ほど待ってから接着しました。

このようにして、あたかも新品のようなシミュレーターに生まれ変わりました。

あとは、週末を私の研究室で療養してもらい、月曜日に外れていなければOKです。

思っていたよりもポートが大きかったので、小型のポートの方がより良かったかもしれません。それからカテーテル類はまた使うかもしれないので、保存しておこうと思います。

思ったよりも上手くできたので、こっちを本業にしようかな(笑)

「在宅看護の実習ガイド」を発刊しました

既にFacebookでは簡単にご紹介しましたが、Amazonにも登録されたようなので、ブログの方で少し丁寧に紹介をしておきたいと思います。

今回の「在宅看護の実習ガイド」は2015年の11月に「コミュニティケア」の臨時増刊号として発行された「看護の本質を体験できる 訪問看護師・教員・学生すべてが成長できる”在宅看護”実習」が完売してしまったことを受けて、改めて書籍化をというご要望を出版社の方から頂き発行したものです。

これにあたって、前回も編集に関与した私、柏木聖代先生、川村佐和子先生に加え、2014年頃から定期的に在宅看護体系化研究会と称して集まっていた其田貴美枝先生、西崎未和先生、原口道子先生に加わって頂き、6名で再度内容を検討致しました。

その結果、前回ご執筆頂いた先生方には、データを最新のものに更新していただいたり、若干の手直しをお願いしたほか、新たに順天堂大学(静岡)の小川先生には生活モデルを意識した実習の展開を、大阪府立大学の中村先生には、12月の看護科学学会で報告されていたルーブリック自己評価表のご紹介、地域と大学との結びつきの強さでも注目されている藤田保健衛生大学の北村先生にも活動をご紹介頂き、また学科や地域を上げて取り組んでいる群馬大学の活動についても牛久保先生にご紹介頂くなど、更にバラエティに富んだ内容となっています。また清水、其田、西崎は所属機関での実習の状況についても原稿を執筆しました。

これらの報告の豊富な情報・アイディアを、教育機関や実習施設の皆さんが活用して頂けるものになっていると思いますし、今回は改めて最終章で在宅看護実習の可視化や言語化に資する4つのSTEPを私達なりにまとめてみました。

今後、国の指定規則などで在宅看護や地域包括ケアに関連する実習がどのような質と量で求められるものになるのかという懸念も抱いておりますが、私たちは常に先をみて、より良いものを学生たちに提供してゆく使命があると思います。そうした主体的で優れた取組みを国の制度が追認し、支えて頂けるものだと考えています。

教育効果を測定していくような研究は私は得意にしてはいませんが、学生に在宅看護の興味深さを伝えていきつつ、そうした評価についても検討していかなければならないのかなと考えています。(一応、それらに関連した内容を昨年、科研に申請したのですが、どうなることでしょうね。)

ぜひ皆様、お手にとってご覧になってみてください。

新・生き方としての健康科学を刊行

これまで、大学院時代の研究室の先輩方がアイディアを出され、大学の教養レベルの健康に関する教科書として好評を博し第5版まで改訂が進んだ「生き方としての健康科学」が「新・生き方としての健康科学」として4月に刊行されます。

私も新版の発行にあたり、著者の一人に加えていただき、医療と社会的なルールについての章を担当し、移植医療について執筆しています。また生殖医療やゲノムの部分については、同級生だった山口大学の藤村一美さんに協力していただき、かなり充実した内容となっています。コラムや図表も多めに配置し、教養レベルの分かりやすさを意識しながらも私達の健康と生活を多面的に捉えた物となっていますので、どうぞ一度お手にとって見てください。

国家試験から今後の教育の方向性を考える

今年の国家試験は「出題傾向が変わった」的な反応が受験生から見られたようで、ネットニュースでも取り上げられたりしていました。

「在宅看護論」に該当する出題は14問ぐらいでしたが、少し考えることになった出題がありました。

 Aちゃん(6歳、女児)は、重症の新生児仮死で出生した。誤嚥性肺炎で入退院を繰り返しているため、今回の入院で経鼻経管栄養法を導入し、退院後は週1階の訪問看護を利用することになった。現在は四肢と体幹の著しい運動障害があり、姿勢保持が困難で、移動及び移乗は全介助である。声かけに笑顔はみられるが、指示に応じることはできない。

母親は「Aは来年の4月には小学校に入学する年齢だけど、入学に向けてどうすればよいのか分からない」と訪問看護師に相談した。
訪問看護師が行う援助として適切なのはどれか。

  1. 自宅に教員を派遣できる小学校に連絡する。
  2. Aちゃんが入学できる特別支援学校を紹介する。
  3. 父親に仕事を調整してAちゃんの送迎をするよう勧める。
  4. 教育委員会に小学校入学に関する相談をするよう勧める。

学齢期前の障がい児の就学に関する出題は、小児の訪問看護に関わる看護師の中では大切な事項であり教育機関との連携のなかでの発達を考える上でも良い問題だと思います。その一方で、これが全ての看護学生が知るべき知識という位置付けだといわれると、教育に力を入れている私達でも自信が持てません。

国家試験出題基準の見直しが予定されているようですが、今後、場面は在宅だが内容は他の専門領域に関する出題という形が増えるようであれば、教育の仕方も色々変えていかないといけないのかもしれません。