「食といのち」を読む


妻の紹介で辰巳芳子氏の「食といのち」を読んだ。

辰巳氏は料理研究家で、私はあまり存じ上げなかったが、本書の中では看護師の川嶋みどりさんや小児科医の細谷亮太さんと「いのち」に関わる食事の話が対談形式で書かれている。

今年のオープンキャンパスで学科長が看護とは?を参加者に解説されていたが、一般的に看護と介護の違いがよく分からないという話をよく耳にする。学科長の説明もそうであったが私はこの場合、似ているものの違いを殊更に強調することよりも、看護師はこういう風に物事を捉えて実施しているということの方が大切なのではないかと思う。

その点で本書では川嶋先生は食事を栄養素の話ではなく、「食」として、また「生きる糧」として看護がどのように考えているのかをわかりやすく示している。川嶋先生以外の対談もだが、平易な書き方になっているので、高校生や一般の方々にも読んでいただきたい本だった。

看護とコミュニケーション


サバティカルに入って研究活動は色々進んでいますが、学生と関わることや高校生向けの説明活動などもしていないので、ちょっと寂しさも感じている今日この頃です。

看護の世界でコミュニケーションはとても大事です。私はコミュニケーション上手でもないし、あまり好きでもない方だと自覚して、学生に授業をしています。

専門的な内容についての質問に答えることは学生さんでも結構上手です(勉強をちゃんとしていれば…の話ですが)。例年、ロールプレイなどを見ていて個人差が大きいと思うのは、患者さんから漠然とした不安を投げかけられた時の対応です。

「手術が不安」という話が出ると、普通の研修医は「手術をすれば症状が良くなりますよ」といった説明をします。これも悪くはないですが、私の授業では学生には話を聞く技術を上手につかって最終的には相手の「気持ち」「感情」を引き出すこと、そして臨床に出て忙しくなっても、そのタイミングだけは逃さずに時間を作ることの2つを強調しているつもりです。

最悪なのは「全くそんなことはありません。それは間違いです。」と全否定してしまって、不安が生じる理由や背景を内面に封じてしまうことです。看護の世界では対象者との信頼関係が損なわれるので、そんな学生には単位は与えられませんが、政治の世界では、とにかく自説を説けば他者の不安が解消すると思われているようです。学生でも取り組んでいることなのに、どうしてそうなるのか、私には理解できません。

「精神科訪問看護」に目を通してみた


以前、学部の講義の際に以前に購入した精神看護エクスペール 8 (8) 精神科訪問看護の内容は良いものの、精神障害者を取り巻く制度がこの数年大幅に変更されたこともあり、そのあたりをまとめてくれた新しい物が出ないかなと思っていました。

5月に刊行された精神科訪問看護は、もう少し入門的な本の装丁と内容ですが、私が知りたかった制度改定のあたりは、最初にまとめられているほか、症状の対応や事例などが豊富に掲載されており、実習で精神障害者の方に訪問する学生や、新たに精神科訪問看護に従事する訪問看護師には、訪問のハードルをかなり下げてくれるのではないかと思います。

これを読んで、私も8月に精神科訪問看護の研修を受けてきたいと思います。

CNS看護学会参加記


13日に開催された第2回日本CNS看護学会に初参加してきました。

中身がどんなものなのか、よくわからないまま参加しましたが、会長講演や基調講演など含めてCNSの領域でも地域包括ケアを意識した内容になっているということ、つまり専門病院で、複雑な医療から引き出された複雑な看護上の問題に対応するCNSの活動とは別に、地域で各分野のCNSが活動することが意識化されていたところは非常に印象に残りました。

僕が関心を持ったのは小児看護CNSの方のNICU児の退院支援に向けた活動で、退院支援の標準化・質の保証絡みでの院内の仕組みの改善や地域へのアウトリーチもあったりして、CNSの質の高い活動がとても良く伝わるものでした。

あとは、CNSに会おう!とか、CNS養成の大学院の紹介コーナーもあったりして、色々な方にお会いすることができました。たまたまいらした家族支援CNSの方にはCNS認定後の能力形成について懇談ができ、家族看護学会の事例検討がとても勉強になっているというお話しだったので、やはり在宅看護についてもそういう場が必要かな?

あと現在上智大におられる渡邊知映さんにも、久しぶりにお会いしました。講演のテーマがCNS活動の質の評価・診療報酬につなげる内容だったのですが、個々のCNSの自分の活動の意識化が第一歩という話には納得しつつも、やはり大規模なデータベースでも作らないとなかなか難しいのではないかといった話をしているうちに次のセッションの時間になってしまいました。

学会については、会場が縦に分散していたので、移動が大変だったということと、一部の演題発表の会場が狭く、かつ企業展示と一緒だったりしたので、その辺は改善の余地があるような感じでしたが、色々普段見られないものを見る、会えない人にお会いできたという点ではサバティカル的にも参加してよかったように思います。

首都圏の高齢化問題と高齢者の転出


日本創生会議の外国人介護職の受け入れと首都圏の高齢者の地方への転出などを中心とした提言が話題になっています。
http://www.policycouncil.jp/
 
自分の描いている将来像とは全然違うのですが、こうした議論はある観点からは出てくるだろうと思っていました。実は5月の4年生の実習の時に同様の観点から学生と議論していたのは、もっと過激かもしれないものでした。
 
突き詰めた話、コミュニケーションがほとんど取れない寝たきりの高齢者の方には、フィリピンの元クラーク空軍基地があった空港(が思いつきましたが)の敷地内に高齢者施設を作って、温暖な気候で、日本と同レベルの教育や研修を受けたフィリピン人の介護職員にケアを提供してもらう。日本と同レベルかやや低いぐらいの賃金をキープして、文化的に異なる日本への長期滞在と言葉に関するストレスを考えれば、介護職員の定着率もよいはず。また空港の敷地内までであれば、首都圏在住の家族がパスポートなしでも渡航できるぐらいの扱いにしてもらえれば、きっと茨城空港の活用度も高まるし、国内の地方都市に転出するよりも便利かもしれない。
ドラマの影響でドクターヘリにのるフライトナースが人気になったけれども、10年後のフライトナースは高齢者を外国に安全に届けるお仕事になっているかもしれない。
といったものでした。繰り返しますが、もちろん私はこうなってほしいわけではありません。現場の方には不愉快に感じる方もおられかもしれません。でも、こんな極端なことを考えてみると、私たちの看護に何が大切で、療養者さんのニーズって何なのか、見えてくるものもあり、やみくもに否定するばかりでは先も見えないのです。。

専門看護師:資料室のページを更新


専門看護師:資料室 のページに、今年度から在宅看護CNSの養成課程として認定された日本赤十字看護大学大学院を追加しました。

これで、在宅看護CNSの養成課程を持つ大学院は11カ所になりました。がん看護の71カ所には遠く及びませんが、家族支援の6か所、地域看護の7カ所を上回っている現状です。但し、教員の異動により実際に養成が行われているかどうかというのは別の問題ですので、受験を希望する方は確認をしたほうが良いと思います。

 

 

 

在宅看護学は何を教える学なのか


自分が大学院で受けた特論(講義)は、その領域の主要なトピックとその研究デザインor多変量解析の手法を15回の講義でかなり網羅的に学ぶことができるものでした。別途行われていたゼミでの抄読会で院生が提示した新しい論文なども参考にしながら、先生が毎年数本論文を入れ替えておられたが、抄読会の中でも各トピックごとにそれなりの研究の量があり、ゼミの参加者が20名もいれば、「こういうのもありましたよ」という話が結構出てきたものです。

昨夜も講義がありましたが、いざ、在宅看護学で何を教えるのかというと例年、結構悩みます。受講生が2人と少ないこと(1名の場合もあります)、かつ年齢や臨床経験年数、基礎学力もそれなりに違うということが1点。そしてCNSコースの受講者もおり、臨床での具体的な内容や政策よりの内容とするのか、これまでの研究成果を中心に講義をまとめていくのがよいのかが2点目。これらは教育を受ける側が多様であるということに起因していますが、3点目は、教授すべき学問領域の全体像が必ずしも明確でないことです。在宅看護学(もしくは在宅看護の臨床)の対象や方法、用語の定義、いずれもが国内でも相応に報告はされているものの、特に後者の2つは体系的に整理されていない部分がかなり残っています。(精神の在宅については、個人的に確認もできていない…)

最後に世界での報告との比較がなかなか難しい。看護師が自宅に訪問して緩和ケアに取り組むという行為は日本でも、米国でも行われていることは事実なのですが、研究としてみると関わっている職種や仕組み、文化は全然異なるので、アウトカムの厳密な比較は難しいし、疑問点は幾つも出てきます。

講義をしている側が何でも知っているというのは幻想ですが、3点目まではサバティカルの間に論文を書きながら、他の先生と意見交換しながら質を上げていきたいと思っています。最後の課題についてはもっと海外に出ていった方が早いのかもしれませんが、今回は外国の文献を読み漁って気になるところを明確化することはしてみたいと思っています。

 

在宅での特定行為に向けて


保健師助産師看護師法の改正に伴い、10月から看護師による特定行為の研修が始まります。

これに関わっておられる方が周囲に多くて、なかなかコメントしづらい話題ではありますが、より良いものにしていくには議論を継続していくことが大切だと思うので、現時点での考えをまとめておきます。(認識の誤りも含めてご意見をいただきたいです。)

この話題にあまり詳しくない方は、いくつかのサイトをご覧になるとよいと思います。

昨日、週刊朝日の「特定看護師に「実情に合わない」の声 在宅医療どうなる?」という記事が.dotというサイトに掲載されていました。

見出しには「特定看護師」と書いてありますが、特定看護師という資格ができるわけではありません。10月から始まる研修を受けた看護師は医師の包括的な指示の下で、これまで医師でなければしてはいけない、もしくは明確ではなかった行為を看護師も行ってよいという制度になります。

記事の中でちょうど春に東大の看護の懇親会で真田教授からコメントを求められた時にお答えしたことと同じことを聖路加の菱沼先生がまとめられています。

ーチーム医療の推進というより医師の人手不足を補う内容に終始しています。看取りを含め、これから在宅医療には看護師にもっと踏み込んだ内容が求められていたのではないか。たとえば死亡診断などは、今後切実な問題になるはずです。

将来的に在宅で必要とされうる行為として死亡診断(またはその事前段階の認証)といったことを、数年前に在宅CNSの部会の意見として看護系大学協議会から問い合わせがあった際には回答に盛り込んでいただきましたが、残念ながら今回の行為には入りませんでした。確かに死亡診断は医師でなければできない重要な行為ではあるのですが、医師がすぐそばにいる環境ではない在宅では、死後硬直のタイミングなどもあり、死後のケアをすることと絡んでくる内容なので、議論してほしいと思っていました。

今回の特定行為の中には、薬剤量の調節のように医師との協働の中で在宅ではすでに行われてきたこともあり、病院と在宅では患者の状態もリスクに対応できる状況が違うので、医療行為でまとめることには若干無理があります。更に病院では、組織としての問題意識やイニシアティブがあれば、一体的に動けますが、在宅ではたくさんの医師と連携して動きますから、特定行為の実施を導入する際にはかなりの労力を必要とするだろうと思います。「チーム医療の推進」をテーマととする検討会の結果にしては医師の協力の義務化といった話がないようなので、在宅の看護師が研修を受けても無意味にならないのかという懸念があります。

また10年間で10万人を養成するという話が出てきたため、現場の看護師が減ることにならないのかであるとか、研修の内容が形式的なものになるのではないかといった懸念もあります。

以上のことから、在宅医療・看護においては、まだまだ検討課題の多く、運用の状況を注視し、必要な修正を加えていく必要があると思います。少しネガティブな指摘が多かったかもしれませんが、この議論のために医療界全体で膨大な時間と労力が注がれているので、活用できるところは活かしていきたいと思います。

なお日本在宅看護学会で、特定行為に係わる看護師の研修制度」と在宅看護での活用と題するセミナーを6月27日開催する予定だそうです。講師として、厚生労働省から習田由美子氏、また試行事業に参加した現場の管理者からの発表もあるようです。関心のある方はご参加されるとよいのではないでしょうか。

看護師等の届出制度について


3月末に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令」というタイトルのとても長い名称の省令が厚生労働省から出され、今年の10月から看護師が退職するときに各都道府県のナースセンターに名前などを登録することが努力義務となりました。

届け出をする機会として

  1. 病院などを離職した場合
  2. 看護師等の業務に従事しなくなった場合
  3. 免許を取得後、すぐに看護師等の業務に従事しない場合

の3パターンがあり、学生が卒業後すぐに働かない場合には、学校などが変わって届け出ができることになりました。

恐らく助産学専攻科や大学院に学生進学するケースが該当すると思います。今年はキャリア支援関係の委員なので、まずはこれが大学としてできるようにしないといけませんね。

神戸の病院での生体肝移植のニュース


移植については以前よりは少し距離を置いているとはいえ、いつも学生には、日本の肝臓外科は世界でもトップレベルだと話してきましたし、今もほとんどの施設はそうであろうと思いますが、先日の群大での腹腔鏡の件に続いての今回ですので、話題にしづらくなってきました…。

今回がどのような原因によるものであるのかわかりませんが、これまでも日本肝移植研究会ではイレギュラーな事象が発生した時にはすぐに調査委員会を作って検証してきましたし、施設側もその調査に協力してきた歴史があります。移植医療というものが日本では必要以上に疑問視されていた経緯を踏まえて、市民への説明責任を他の学会、専門分野以上に意識している医療職の集団だと思っていますので、原因の究明を適切に行っていただけるものと期待しています。

私はその肝移植研究会の生体肝移植の肝臓提供者(ドナー)を対象とする第2回の全国調査を実施する委員をしています。
その1回目の調査でも色々なことがわかりました。
肝移植は重症肝不全患者を対象に行われる治療です。術前の状態が悪ければ本人・家族のみならず医療職も救命したいと強く願うわけですが、術後の成績は悪くなる傾向になります。また早い時期に手術すれば成功率は上がりますが、肝移植では術後間もない時期の死亡率が比較的高いため、まだ元気だったのに亡くなってしまうという方も確実に存在します。
前回の調査では、ドナーの手術への満足度は自分自身の回復と患者の回復、そしてそれらの相互作用が影響していることがわかりました。
つまり、ある程度患者の回復が見込めない生体肝移植は、単にドナーに身体的な術創や内部の損傷による侵襲を与えるだけではなく、術後の精神状態を悪化させるリスクがあると考えられます。
肝臓外科医たちの英知と普段の努力によりこの四半世紀で手術成績が著しく改善した現在においても、ドナーの問題を絡めると手術適応の判断の難しさは不可避かつ本質的な課題であると思います。

生体肝移植、患者7人中4人死亡…神戸の新病院