巻頭言への補足説明
日本移植・再生医療看護学会が発行する日本移植・再生医療看護学会誌の第5巻第1号に編集委員をしている関係で、巻頭言として下記の文章を執筆しました。
日本移植・再生医療看護学会が平成17年に日本移植・再生医療看護研究会として誕生し、今年、第5回学術集会が添田英津子学術集会長のもと、慶応義塾大学病院で開催される。
添田学術集会長は、日本の臓器移植コーディネーターの草分け的な存在であるが、その臓器移植については、この夏に臓器移植法の改正という大きな話題があった。国内において小児からの臓器提供による移植が実施される可能性が出てきたことにより、これまで渡航移植を余儀なくされてきた待機患児とそのご家族の経済面を含めた大きな負担の回避と生存率の向上が期待される。その一方で、小児の脳死判定に対する疑念や、虐待による脳死患児からの提供の問題、「脳死は人の死」といった死の定義などが、しばしば議論に上がってきたことも記憶に残る。
国民やマスコミが私たちに向けるまなざしからは、医療職が「神の如く」患者の予後や背景を見透かし、決して誤りのない医療が提供されることを期待しているかのような印象を持ち、率直なところ違和感があった。また日ごろ私たちが接している臓器移植・再生医療が社会を揺るがす存在であることも改めて自覚することとなった。
法改正に伴う新たな形での臓器提供が行われるにあたり、さしあたっては臓器提供施設での医療の質やご家族・ご遺族へのケアの充実が問われることになり、移植施設の体制整備も必要となるであろう。
ただ今回の一連の動きを眺めてみると、日ごろから臓器移植が広く理解され、反対意見や疑念も含めた形で幅広く議論される日本流の移植文化を育み、定着させてゆかないとならないだろう。
6年目を迎える本学会の次なる課題なのかもしれない。
この巻頭言に対して、大阪府立大の森岡正博先生が開設されているLIFESTUDIES.ORG/JPというサイトにある「脳死臓器移植」専用掲示板に、「現実認識に欠ける日本移植・再生医療看護学会理事・編集委員の文章」と題して、ある読者の方の「この巻頭言は現実離れしている」という感想が掲載されていました。
私は学会誌の巻頭言というものは、学会誌の中身に対する引き立て役(刺身のツマ)みたいなものだと思います。科学的根拠を詳細に示しながら、論を展開する場所でもないし、文章量にも限りがあるので、本来、本格的な議論の対象とすべきようなものではないと考えています。
ただ、この文章の中で「反対意見や疑念も含めた形で幅広く議論される日本流の移植文化を育み、定着させてゆかないとならないだろう。」と書いてしまいましたので、理解されていない点や疑念には可能な限り答えておくべきではないかと思いましたし、そのためにこのブログを活用することも可能でしたので、先方の掲示板ではなく自分のサイトに、提示された疑問点に即した形で補足説明と感想に対する感想を述べようと思います。
まず一つ目の話題は、臓器摘出は草創期から「脳死」前提だったというものですが、1969年に発表された症例や、1978年に報告された症例などを示しながら、
臓器移植にかかわる看護関係学会の理事であれば、昔から「脳死」臓器摘出の実態に認識があって当然と思うのだが、今回の巻頭言、編集後記には?
と書いておられます。編集後記を書いているのは別の方なので、そちらはおいておきますが、私は生まれる前や幼稚園児の頃にどのような臓器提供が行われていたのかを見ていたわけではないので、よくわかりません。
また生体移植に関わる問題にかかわってきたので、脳死判定の問題にとても詳しいとは思っていませんので、不勉強だと言われればその通りでもっと勉強しなければいけないと思います。ただし、少なくとも私が勉強してきた中では、移植医療の世界で、こうした摘出が素晴らしい方法だと称賛されているとは全く思いません。
今の基準からみれば、適切な方法ではないのだろうと思いますし、こうしたことを避けるためにも法律が制定されたのだと理解しています。今回の臓器移植法改定において「脳死は人の死」とする内容もありましたが、臨床で提供者にかかわる看護職にとっては、脳死判定の方法が変更されたわけではなく、今回の改定との絡みでは、会員向けの文書としてそれほど意識しなくともよい問題ではないかと考えていました。
念のために申し添えますが、本学会の理事は会員の選挙によって選出される評議員の中から選出されるのですが、その際には「脳死臓器摘出の実態に認識があること」とか、「それを巻頭言に書かなければならない」などという条件があるわけでもありません。
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